“君の夢を見たよ…ハレルヤ”
虚ろな目と覚束ない足取りで、僕の前まできたが、ふっ…と微笑んでそう呟いて。
目の前からふわりと消えた。
「…えっ、…っ、!?!!」
正確には、消えたのではなくて、目の前で糸が切れた人形のように崩れ落ちたのだけれど。
けれど、その崩れ落ちたの先に広がっていた、赤い道筋に。
僕は悲鳴にすらならない上擦った声で、真っ赤な血に塗れたの躰を抱き締めて。
「ッ!ッ!!」
何度も何度もその名を呼んだ。
治療ポッドの中で、が青白い肌で眠っている。
一体、いつからの関係だったのか。
彼のいない世界でその問いに答えられるのは、目の前のだけだと知りつつも。
そんなことを今のに聞いてしまったら。
きっとの心は耐えられなくて壊れてしまうから。
これは今の僕では永遠に知りえないことなのだろうけれど。
僕の意識下にない間に、ハレルヤはと関係を持っていた。
それが世の一般でいう相思相愛の仲だったのかはわからないけれど。
4年前のはとても幸せそうに笑っていたから。
きっと、そういう仲だったのだろう。
「ごめん、ね……」
ここに戻ってきて。
安堵に震える声でハレルヤは?二人共元気だった?と聞いてきた。
に、彼が永遠に消えてしまった事を告げた。
“そっ、か…。おかえり、アレルヤ。アレルヤだけでも生きていてくれて、嬉しいよ”
涙を浮かべて、おかえりといった。
あの時は、と彼がそんな仲だったなんて知らなかったから。
そう言ったの服の裾を掴んでいた手が力なく震えていたことにも、僕は気付けなかった。
伝えるべきではなかったのかも、しれない。
彼――…ロックオンは、のひ弱さを非難していたけれど。
にとってハレルヤは、憎ましく思っているこの世界でたった一人、全てを許せた人間で。
きっと、の唯一の光だった。
が現実から目を背けてしまったのは。
砂時計の砂のように、じわりと緩やかに心を壊してしまったのは。
あれから何日が経った頃だっただろうか…。
“おはよう、ハレルヤ…”
向かいの通路からやってきて顔を合わせた僕に、はそう言って微笑んだ。
それまで、何もかもが普段通りで。
服の内側に隠された幾重もの傷にも、誰一人として気づいていなくて。
“…?”
瞠目したティエリアにが無邪気に笑いかけた。
“ん、何?もー、ティエリアどうしたの?ハレルヤ、ティエリアがなんか可笑しいよ?!どしたんだろうね?”
ゆるやかに、けれど確実に、歪んで壊れていったの心。
気づいた時には、何もかもが手遅れだった。
ハレルヤらしからぬ僕の発言に、がパニックに陥って。
それでも、僕から少しでもハレルヤらしいところを見つけようとして。
それが堂々巡りをするようになって。
ほんの少し傷をつける、というような自傷行為じゃ済まなくなった。
皆が寝静まった深夜。
夥しい血に濡れたが部屋の前で蹲って、ハレルヤの名を呼んでいるのを。
何度この目で見ただろう。
“連れて行って、ハレルヤ…”
うわ言のように呟いていた。
もしかしたら、心のどこかでは彼の死を理解しているのかもしれない。
けれど、理解しきれなかった部分が今、こうして。
の心を蝕んでいる。
「ごめん…ね、…っ」
が彼のことを好きでいたのと同じくらい、の事が好きだった。
けれどは僕ではなく彼を選んだ。
けれどここに、彼――…ハレルヤはいない。
A-