夢と現の狭間に、いた。

そこにいれば、君とずっと一緒に居られるから。

温もりも、形もない。
それが、ただそこに在るだけの。
いつかの君の幻影であったとしても。


ここにいれば、君と居られるから…。


……ハレル、ヤ…






ぼやけた視界に映る無機質な天井に。
ああ、また治療ポッドに押し込められたのだと、悟る。

意識が覚醒した今でもポットがオートで開かないということは。
この躰はまだ起きあがることが許されない程度に傷ついているのだろう。


「…ハレ……っ、…アレルヤ…」

視線をわずかにずらせば、椅子に腰掛けたまま俯いて眠ってしまっているアレルヤが、瞳の中に映り込む。

いつだって、目が覚めたら傍に居てくれる。

けれど、一瞬の錯覚が、僅かに残った正常な意識を、その度に蝕んでいく。




責めるつもりはこれっぽっちもないはずなのに。

軋んだ心が、何故、どうして、そこに彼がいないのか!と泣き叫ぶ。


ふとした動作に、彼らしさを見出したくて。
けれど、見れば見るほどに彼がもうこの世のどこにもいないのだと。
重たい現実が圧し掛かって。


すぐ傍にいるのに、けれどそこに彼はいない。

狂おしいほどの葛藤に。
閉じ込めていたいつかの狂気が心を支配し始めたのはいつ頃だっただろう。


“もう、何も……わからないよ、ハレルヤ…”

ならばいっそ…、とじわりじわりと躰を傷つけた。




「酷いヤツだ…って、散々に罵って嫌ってくれれば…いいのに…」


力の入らない手を、なんとか持ち上げて。
ポットのガラス越しに見えるアレルヤに手をのばす。


「優しく、なんて…してくれなくて、いいの…に…」



傷つけるばかりの自分に、嫌がる素振りなど一切見せずに。
変わらず傍に居てくれる。

その優しさの根底が何なのか。
気付かないほどに愚かだったなら。

気付かずにすべて壊してしまえたならば。

「…ごめ、ん………ごめんっ、アレルヤ…」



こんな風に自分に付きっきりで困らせるなんてこと、なかったのに。




A-