生まれた時に既に死んでいた。
俺は生への執着がなくて。

こんな俺でも必要としてくれるなら、いいと思った。

生まれた時に殺された。
その痛みに比べれば、どうってことはない。

そんな俺は彼らの最初の実験体。
できそこないの、成功体。







「君が最後?」

後ろから近づいて。
トン…と肩を指で叩いて、ぐるりと前へと回り込む。

「…えっ、…あ、はい」

「じゃあ、俺が最後だね」

あどけない顔で、けれどきちんと答える君に。
ほんの少し安堵して。

無邪気に問い返してくる、君の感情の在る瞳に。
魅せられたのだと気づいたのは、どれくらい経った後だっただろうか。



「あなたは僕の後の人ですか?」

「そうだよ。本当は既にこの番号の子はいないんだけどね。定期的な検診も兼ねて、気まぐれで付き合わされるんだ。」

「なんのこと?何を言ってるんですか?」

「ううん、なんでもないよ。」

きょとん…と、わからないという表情になる君に。
口元を緩めて微笑んで。


「君―――」

僅かな期待と願いを込めて。

“こっちで会話、できる?”

心の声に、切り替える。




“これ、でいいですか?”

“うん。君はいい子なんだね。それなら今日の実験も大丈夫だよ。安心して、行っておいで”

間髪入れずに返ってくる心の声に。
頬の筋肉がゆるりと緩む。


やっと出会えた。
やっと見つけた。

俺の声が届く、君。




「次、E-57!」

「いってらっしゃい、57番目の君」

研究員の呼び声に、席を立つ君の背中に声をかける。

「い、行ってきます。58番目のお兄さん」


ほんの少しだけ、笑顔を見せた。
君が進む、先の部屋の中。
君が入るのと同時に運び出されていく、少年の無残な遺体。

でも、君なら大丈夫。
俺の声が聴こえる、君ならば。










「今だっ、急げ、アレルヤ!」

「……ッ…!」



銃を手に遠ざかっていく君の気配を追いながら。
壁にトン…と背を凭れさせて、上がる息を押し殺す。

「…っ、は……ははっ、君の為にここまでできたよ。これが執着ってヤツ、かな?」

血塗れの部屋に佇む俺と、床に転がる研究員の数多の死体。







58番目の俺から57番目の君へ。



「生きろ、アレルヤ。いつか出会いに行くから。それまで―――…       」