「ハレルヤッ! とりっくおあとりーとっ♪」
そう言ってが片手に大きなかご、もう片手に何故かピコピコハンマーを持って俺の退路を塞ぐようにやってきた。
にこにこと満面の笑みを浮かべながら、からっぽの籠を目の前に突き出してくるに、面倒臭ぇと思いつつ。
何も反応を示さないのはまったくもって得策ではないといままでの経験で学習済みなので。
ねぇもんはねぇ…と、ズボンのポケットを逆さにするようなジェスチャーで返事を返す。
「…ンだよ、菓子なんて持ってねぇぞ」
「じゃあ、ハレルヤ頭出せ」
「おまっ、今さっきまでのかわいさはどこ行った!」
「さぁ?」
さぁ?じゃねぇ。
どれだけ寛大に見てみても、明らかにさっきのにこやかさとは違う、どす黒いオーラが目の前のからにじみ出ている。
もっと細かく言えば、かごじゃないものを持っている方の腕から、特にだ。
「…もしかしなくてもそれで俺の頭を叩く気か?」
それとはもちろん、の手にあるピコピコハンマーのことだ。
頑丈な体が取り柄だから、別に叩かれること自体に問題は無い。
…無いが、あんなもので頭を叩かれるのはできれば勘弁願いたい。
叩いた時に物凄くアホな音がするのだ。
ピコーン、と物凄い軽い音が…。
嫌だ、イヤ過ぎる。
それに、菓子を持ってなかったくらいで叩かれるというのもなんだか癪だ。
アレルヤならば、まだ何かしら用意する気概もあるだろうに。
何故アレルヤじゃなく、自分なのか。
手ぶらで歩いてくる俺に聞いてくること自体がそもそも間違っているだろう。
「…あっ、てめぇ最初っからそっちが目的か!」
しばし考えて行き当たった結論に、言い終わる前にの声が上から被る。
「…よくわかったね、ハレルヤ。えらいえらい。だから頭出せ」
途中まではとても柔らかな声なのに、最後だけ氷点下になっている。
しかも、命令形だ。
俺、ここ最近でこいつを怒らせるような何かしたっけ?
んー。
…やばい、あり過ぎてどれかわかんねー。
昨日、夜中に勝手にベッドに潜り込んだこと?
それとも、先週のミーティング前ん時に襲おうとしたこと?
…いや、でもあれは未遂で終っちまったし。
じゃあ、一昨日シャワールームで一発ヤっちまったことか?
あー…、あれは終わった後もんのすげぇ怒ってたもんなー。
…って、この際どれが逆鱗に触れたかなんて問題じゃない。
「だっ…、誰がお前なんかに叩かれてやっか!ハッ!」
ここで負けたら、あのピコハンに屈することになる。
ハロウィンに乗じて計画的に怒りを発散させようとしているは怖いことこの上ないが。
ピコハンだけは、絶対に嫌だ。
俺は逃げるぜ!
後でまた、なし崩し的に躰を籠絡してしまえば、どうにかなるだろう。
そう考えて、ハレルヤが逃げる。
Happy Halloween
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ただ今のところ、0勝1敗。
「あん…にゃろ、逃げやがった!くそぉおおおおおおお、浮気してやるーーーーーーー!」
手にしていたピコハンをスコーンと床に放り投げて、が叫ぶ。