「もう、おとなしく部屋戻って寝よっかな…」
本当はロックオンの部屋にでも押し掛けて、ハレルヤへの仕返しを目論みたいところなのだが。
これ以上うろうろしていて先ほどの刹那よろしく、スメラギ軍団にうっかり遭遇でもしてしまったら、たまったものではないし。
一番の用事だったハレルヤはどこかへ逃亡してしまっている。
毎度のパターンだと、今晩あたりにはひょっこり顔を出しそうだが。
さすがに今日という今日は頭にきているので、今夜は長期戦さえも辞さない覚悟だ。
あんにゃろう、躰落とせば許してくれるって絶対思ってる。
今日という今日こそはなし崩しにはさせはしない。
ぜってぇ、シめる。
「って考えると、やっぱ今からでも仮眠しとかないとなー」
足もとに落ちた空っぽの籠と、廊下の端の方まで飛ばしてしまったピコハンを歩きつつ手に取りながら。
いろいろとドス黒いことを胸中で思案しつつ、ポテポテと自室を目指す。
行き当たりの廊下を右折して、その曲った先に人影がないことを確認してから、居住エリアへ一目散に足をのばす。
女子軍団アジトことスメラギさんの部屋と、自分の部屋はある程度離れている。
が、用心するに越したことはない。
とりあえず、自分の部屋の前まで誰一人として遭遇しなかったのは、よかったことなのか、それともこれから起こる出来事への予兆なのか…。
は、何事もなく自室に辿り着けたことに安堵の溜息を零す。
そして、ロックを解除して部屋に足を踏み入れようと…しかけて、止めた。
シュン…
軽い音をたてて扉が開く。
「………。」
「………。」
シュン…
そうして再び、扉が軽い音をたてて閉まる。
「…エッ?ナニ、イマノ……」
あまりの衝撃に吐き出す言葉がカタコトだ。
でも、そうなってしまってもまったくもっておかしくないものを、見た。
「え…何?今の何?!えっ…ここ、俺の部屋だよな?」
もしかして、部屋間違えた?!
一縷の望みをかけて、ドアロックの表示盤を見ても。
そこには“・”と部屋の主の名前がきっちりと表示されている。
俺の部屋だ。
どう見ても、どう考えても、目の前の部屋が俺の部屋だ。
でも、…超、入りたくねぇ。
目撃してしまったものを思い出して、胃がキリキリと痛みだす。
だが、今から別の部屋に移動するのは危険なこと極まりない。
そして、できれば自分の部屋でゆっくり寝たい。
や…、でも、今のはもしかしたら何かの見間違えかもしれないし…!
頭を抱えて、あーでもないこーでもないと自室前で一人百面相で悶えているこの様は、きっと他のクルーがみたら、当分のネタにされることだろう。
他に誰もいなくてよかった…。
「…はぁ、どうか、どうか!見間違いでありますようにっ」
ささやかな希望と、大概の覚悟を決めて、再びドアのスイッチに手をのばす。
シュン…
「………。」
「………幻影、これは、夢、これは幻…」
「…何をぶつぶつ言っている・。早く入って早く閉めろ」
容赦ない現実が、俺を滅多打ちにした。
「夢、…じゃ、ない…のかよぉおおおおーーーー」
決めた覚悟は先の一言で急速に萎んで消えた。
ささやかな希望など扉が開いた瞬間に跡形もなく消え去った。
残ったのは、キリッキリと痛む胃と、目の前の包帯を生肌にぐるぐると体に巻きつけたティエリアだけだ。
しおしおとささやかな一歩で自室へと足を進めると、
シュン…
と無情な音で扉が閉まる。
もう、どうしたらいいかわかんない。
なんでティエリア、なんで俺の部屋。
よく見たら、体に巻きつけられている包帯も、きっちりとは巻けてなくて、イヤな感じにチラリズム全開に包帯が解れている。
その格好、エロイぞ。
ティエリア。
Happy Halloween
・
現時点、0勝2敗1引き分け。
でも、引き分けじゃないかも、これ。
「お前が万死だこんちくしょーーーーーーーう!!!!!」
不覚にも、ティエリアの格好にムラッときた、が叫ぶ。
…心の、中で。