可愛がり慈しみ、溺愛して大切に大切に、俺好みに育て上げた飼い犬に、気がつけば手をかまれていた。
巷でよく使われる諺を、俺なりに直してみたらこんな風になるだろうか。


「ははっ…ばっかみてぇ。」

なんて、思ってもいないことを自嘲気味に呟いて、グラスに残ったアルコールを一気に呷り。
氷だけの空になったグラスをガンッ…と、テーブルの上に叩きつけるように置いて。
凭れかかったソファーにずるずると蹲り沈み込む。


「俺も歳だよ、ロックオン…。酒に頼らなきゃやってらんないなんて…俺、さいてー…」

ぱらぱらと前に崩れてきた髪を指の先で梳き上げて。
今は亡き、友を思い浮かべ。
震える躰をぎゅっと掻き抱いて、一人、ソファーに身を縮こまらせる。




アルコールで体を満たせば、温まると思った。

震えるのは、寒いからじゃない。
胸が苦しいのは、呼吸ができないからじゃない。


「上手くやれるとおもってたんだけどなぁー…」

消え入りそうな声で、ぼそりと呟き。
昼間の光景を思い出して。


「……ッ、…飲まなきゃ、やってらんねぇよっ、クソッ…!」

縮こまらせていた四肢を伸ばし、テーブルの上にあった酒瓶に手を伸ばす。



「…はー…、俺…ほんとヤなやつだよ、ロックオン。どっかから見てる?見れてたら是非ともバカな奴だなって、笑ってて?」

定まらない焦点でぼやけた視界の中で、誰にとでもなくそう呟いて。
空笑いを掻き消すかのように、手にした酒瓶を逆さに傾け、残りの酒を一気に呷った。


トレミークルーの中で一番色恋沙汰に節操がない割に、深入りしないであれこれこなす凄い奴、と太鼓判まで押されていた自分が。
まさかこれほどまでに女々しい感情を持つ日が来るなんて、今日の今日まで思ってもみなかった。







アレルヤを探しに行ったロックオンからのアレルヤ無事の通信に、ほっ…と心の底から安堵した束の間の出来事だった。

始まりの時点で既に、真っ当とはとても言い難い関係だったから。
裏切ったとか裏切られたとか。
そんな風に思うことはなかった。


だから、送られてきた映像を見た瞬間こそ驚きはしたものの。
その時はそれ以上に何かを感じることはなかった。





闇色の虜 01