その唇が、俺の名を紡がなくなった。
その眼が、俺を捉えなくなった。

寂しいという感情が、ぽつりと生まれた。


あの唇が紡ぐ名を、同じように呼んでみた。
少しでも愛おしさが増すように。

あの眼が映す存在を、自分の視界に入れてみた。
同じように微笑むことができるかと思って。


けれど、どれもこれも、駄目だった。




「なに、やってんだろうなー…俺」

ふらりと覚束ない足取りで、静まり返った居住エリアの通路を。
それでもまっすぐに、目的の人物が眠る部屋を、目指して進む。

「なぁ、アレルヤ…」


ぽつりと生まれた寂しさが、虚しさと混ざり合って。
愛おしさの中に、歪み狂った、愛という名の狂気の波紋を生み出していく。




闇色の 02